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脳硬塞(4)
II. 薬物療法の指針(2)
- [ C. 脳梗塞の抗血小板療法 ]
- 抗血小板薬として本邦では主にアスピリンとパナルジンが使われている.現在,欧米を含めて脳梗塞の二次予防に対して エビデンスがあり認知されている抗血小板薬はアスピリン,クロビドグレル(本邦未承認),ジピリダモール,チクロピジン,アスピリンとジピリダモール(保険未収載) の併用である.またシロスタゾールは最近本邦で日本人を対象としたRCTによってはじめてエビデンスが認められた抗血小板薬である.以下にこれらの抗血小板薬の予防効果におけるエビデンスと 出血などの副作用,あるいはラクナ梗塞への抗血小板薬の投与の問題について概説する.
- 【注】
Hartら(Hart RG et al:Aspirin for the primary prevention of stroke and other major vascular events. Arch Neurol 57:326-332,2000)は, 脳卒中の一次予防に関してアスピリンとプラセボを比較した5件の無作為化試験のメタアナリシスを行い,さらにその後さらに3件の試験が追加された. これら8件の試験全体では,さまざまなアスピリン用量(75〜990mg/日)に無作為に割り付けられた患者59977人が対象に含まれた. アスピリンは全心血管系イベントの発生率を有意に低下させたが(RR,0.89;95%CI,0.82〜0.96),これは主として心筋梗塞発症率の大幅な低下によるものであり, 脳卒中(特に出血性脳卒中)のリスクはアスピリン療法によってわずかではあるが上昇した(RR,1.07;95%CI,0.95〜1.22). 大出血のリスクもアスピリン療法によって上昇した(RR,1.53;95%CI,1.15〜2.04). したがって,アスピリン投与は心筋梗塞の一次予防に有用である可能性はあるが,脳卒中の一次予防に関しては効果を認めない.
抗血小板療法とアテローム血栓性梗塞
一過性脳虚血発作(TIA)患者は、特に最初の発作後数日以内における脳卒中発症リスクが非常に高い.TIA患者1707人のコホート研究 (退院後に68%がアスピリン,12%がチクロピジン,14%がワーフアリンを服用)によると,90日以内での脳卒中発症率は11%であり, このうち半数はTIA後2日以内に脳卒中を発症していた.虚血性脳血管障害の既往を有する患者における再発作の予防は緊急の課題である.
脳梗塞・TIAの既往を有する患者における抗血小板療法による脳梗塞予防効果は,1994年に発表されたAntiplatelet Trialists Co11aboration(APT)のメタアナリシスにより確立された.その後,APTはAntithrombotic Trialists Collaboration(ATT)と改称し,1997年9月に閉塞性血管障害の 高リスク患者(血管イベントの年間発症率3%以上)において287件のRCTでランダム化された約20万症例をメタアナリシスにより解析した最終結果を発表した.
血管イベント(脳卒中,心筋梗塞,血管死)低減効果に関して抗血小板薬別の解析では, アスピリンが23%,チクロピジンが32%,アスピリンとジビリダモールの併用が30%とそれぞれ有意な低減効果認めた.
アスピリンの用量別解析では75-159 mgの血管イベント低減効果が最大(32%)であり75mgの効果は有意ではなかった.胃毒性の強い500-1500 mgの高用量や160-325 mgの中等量が75-150 mgの低用量より有効であるとはいえず,高リスク患者における血管イベントの長期管理には75-150 mgの低用量のアスピリンが推奨された.
チクロピジン500mg/日に対しアスピリン 1300mg/日で3年間の血管イベント発生を観察した.TASS (Ticlopidine Aspirin Stroke Study)では, 3年間のstroke発生ではチクロピジン17 %に対しアスピリン19%であった.すなわち,チクロピジンはアスピリンに対して12%の危険低減作用を有した(p=0.048).
CATS (The Canadian American Ticlopidine Study)でもチクロピジン250 mg×2/日と偽薬とで比較している.偽薬での血管イベント発生率は 15.3%に対してチクロピジン群では10.8%であり相対的リスク低減率は30.2%であった.
いずれの研究でもチクロピジンの血管イベントの低減効果はASAより優れるとされている.この理由としてずり応力刺激による血小板凝集(SIPA) はチクロピジンやクロビドグレルにより強力に抑制されるがアスピリンによっては抑制されないためと考えられる.
アスピリンとジピリダモールの併用療法の効果がEuropean Stroke Prevention Study (ESPS)-2で検証された.各々の単独療法より 脳梗塞・TIAの再発予防効果が相加的に高まり脳梗塞のリスク低下度38.8%であった.
シクロオキシゲナーゼ阻害作用を有するアスピリンとADP受容体阻害作用を有するチクロピジンの併用は強力と思われるがまだ有意差は検出されていない.現在MATCH (management of atherothrombosis with Clopidogrel in High-risk patients)でクロピドグレル単独と クロピドグレルとアスピリンの 併用の比較が進行中である.アスピリンとチクロピジンの併用はアスピリン単独より血管イベントが21%減少するが頭蓋内出血の頻度も高くなる.併用には血小板機能検査による モニタリングが必要である.
抗血小板療法の選択枝としては,(1) アスピリン,(2)クロピドグレル, (3) ジピリダモールと少量のアスピリンの併用,(4)チクロピジン があげられる. この選択枝は欧米ではコンセンサスとなっている.クロピドグレルの優先順位が高く,チクロピジンが低いのは好中球減少や血栓性血小板減少性紫斑病 といった副作用の発現頻度を考慮した結果である。抗血小板療法とラクナ梗塞
80年代後半,欧米での心原性を除く脳梗塞の内訳はアテローム血栓性梗塞が70%以上であるのに対し,当時のわが国ではラクナが60%以上を占めていた. ラクナ梗塞に血栓が関与するという明らかな証拠が示されていない.ラクナ梗塞の成立については,直径3〜7 mm程度の小さいラクナは, その部を還流する直径200μm以下の血管壁に生じるlipohyalinosis,あるいはangionecrosisによる血管閉塞に由来するものが多い. その他,穿通動脈の微小粥腫,主幹動脈のアテローム硬化による穿通動脈入口部での閉塞, 心あるいは太い動脈に由来する血栓による閉塞,まれに小動脈の解離もラクナの原因となる.すなわち,ラクナ梗塞の発生原因は千差万別であり発生に 必ずしも血栓のみが関与するという明らかなエビデンスがない.
最近の欧米での病理学的研究 (Mohr JP:Lacunes. Stroke: Pathophysiology. Diagnosis and Management. Second Edition ( ed Barnett HJM, Mohr JP, Stein BM et al.) Churchill Livingstone, New York, 1988,pp913-928) では症候性ラクナ梗塞の成因としてlipohyalinosisやfibrinoid necrosisよりも微小粥腫(microatheroma)のほうが多いと考えられるようになっており ,穿通枝起始部の粥腫によるbarnch atheromatous disease (BAD)では大血管病変を合併することが多く血小板療法の適応があると考えられている. HITSの観測によると,主幹動脈の粥腫斑に由来する血小板微小塞栓が原因となる症例もかなり多いのではないかと推測される.
厚生省循環器病研究班(班長:山口武典:脈管学34(5), 270-285, 1994)によるRCTでは 抗血小板薬(ASA,Ticlopidine (200 mg))のラクナ梗塞発症予防効果は証明されなかった.すなわち日本人のラクナのみに限れば,抗血小板薬の投与は必ずしも 再発予防に有効でない.当時の結果では抗血小板薬使用群で年間発症率が3.4%に対して非使用群では2.9%と両群に有意差を認めなかった. すなわち,結果的には抗血小板療法によるラクナ梗塞に対する抗血小板薬の効果は統計的には有意では無く, 年間脳出血発症率に関しても統計的には有意でないが抗血小板薬使用群0.8%に対して非使用群0.4%と前者で脳出血の発症が 増加する可能性を否定できなかった.
本邦では最近,シロスタゾールでも脳梗塞二次予防で認可がおりた.CSPS(Cilostazol Stroke Prevention Study:Gotoh F et al:J Stroke Cerebrovasc Dis 9(4):147-157,2000)で 発症後1ヶ月から6ヶ月の1052例の多施設ランダム化二重盲験比較試験を行った.Placeboに対し41.7%の脳梗塞再発のリスクの減少効果(p = 0.015)があった.
疾患層別解析(患者の75%は皮質下小梗塞であった)でラクナ梗塞の発症はシロスタゾール群で20例,偽薬群で39例であり,シロスタゾール群で有意な再発減少が認められた(リスク低減率43.4 % p=0.0373).しかしアテローム性脳梗塞(p =0.262)や混合型ではp = 0.4361とplacebo投与群と有意の差をみなかった.
副作用の脳出血ではCilostazolによる脳出血の年間発症率は0.0045で偽薬の0.0071との間に有意の差は認められなかった(p = 0.473).
欧米と本邦では疾病構造は異なっており,CSPSは本邦で初めての大規模で厳密な研究デザインによるevidenceであり, 従来抗血小板療法の評価の定まらなかったラクナ梗塞での効果を確認できたといった点で重要である.
シロスタゾールはPDEIII阻害作用により血小板中のcAMP濃度を上昇させることでCollagen, Epinephrin, アラキドン酸刺激による血小板の一次凝集および二次凝集を抑制する. また血管平滑筋のcAMP増加による末梢血管拡張作用を有し投与前後でSPECT上にて前頭白質,側頭皮質,後頭皮質で有意に脳血流が増加しP300 latencyの有意な短縮を示すなど 認知機能の改善効果の可能性が報告されている.また、チクロピジンに認められた高ずり応力(SPIA)による(ずり応力惹起)血小板凝集抑制能を有している.また内皮細胞由来の NO産生増加作用を有し,血管拡張を介し微小循環を改善し,さらに接着分子やサイトカイン抑制作用により抗炎症作用を有するとされる.シロスタゾールは以上のように抗血小板作用の他に血管平滑筋増殖抑制作用,血管内皮機能改善作用,血管拡張作用などの多面的な効果を持つことにより再発リスク低減効果を示すものと考えられる.他の二次予防効戦略のエビデンス
アテローム硬化は慢性炎症性疾患の1つであるとする考えがある.ICAM−1やVCAM−1等の接着レセプターは,アテローム硬化の強い内皮細胞に出現し, アテロームの成長する間は出現し続ける.単球やT細胞が出現した接着分子と結合し活性化され,サイトカインや蛋白分解酵素を放出する.活性化T細胞 やマクロファージと同様に白血球接着レセプターやサイトカインが,症候性頸動脈血栓内膜剥離術から得られた検体に存在する.
Chlamydia pneumoniaeはアテローム硬化性頸動脈プラークに限定して同定される.CRPが喫煙者や血管危険因子をもった健常者で増加する.CRPと脳卒中 を含む血管障害のリスクと有意な関連がある.CRPの高い男性のみで血管イベントのリスクをアスピリンは減少させる.血管イベントや脳卒中を減少させ たプラバスタチンは5年間の追跡でCRPレベルを有意に低下させ,プラセボ群ではCRPレベルが上昇した.しかしながら,現状では特異的治療を勧告するに は十分なデータがない.
C. pneumoniaeの研究は,現在では高抗体価保持者がazithromycinによる治療により将来の虚血性心血管障害が減少するのかをテーマに,数々のprospective studyが行われている.現在心血管障害を対象にWeekly Intervention with Zithromax Aterosclerosis and related disease (WIZARD) studyや The Azithromycin and Coronary Events Study (ACES) が行われている。
ビタミンEやCの補充,カロテノイドの使用が脳卒中を減らすエビデンスはない.果物や野菜が毎日少なくとも5つ含まれた健康的な食事は脳卒中を減少させる. 相対リスクが0.69で,1日あたり1つ増やすと脳卒中リスクを6%低下させる.
