神経内科
神経内科トップ > どんな病気を診ているの? > 脳硬塞 (1) (2) (3) (4)
脳硬塞(1)
虚血性脳血管障害の再発予防
戦後永らく日本人の死亡原因の第1位であった脳卒中は,危険因子の管理や生活習慣の改善などにより死亡数は減少しているものの,発症数からみれば 3大生活習慣病(悪性新生物、脳卒中、心疾患)の中で依然トップを占めている。また,身体的、知的機能低下が生じるため寝たきりや痴呆の最大原因であり, 医療費と介護費に占める割合が最も高い疾患でもある。したがって、今後未曽有の高齢化社会に突入するわが国において, 脳卒中の有効な予防法の確立はまさに喫緊の課題であるといえる.
脳梗塞の予防は最初の発作を防ぐための一次予防と再発作を未然に防ぐ二次予防に分けられる。 TIAまたは脳卒中の既往歴を有する患者の二次予防を目的とした治療戟略は,一次予防のそれより費用効果が高いと考えられる。 なぜなら、少なくとも内科的に治療する場合、合併する危険因子の種類にかかわらず、一次予防と二次予防における脳卒中の相対リスク低下率はほぼ同程度であり, これは高リスク患者において脳卒中の絶対リスク低下率が非常に高いことを意味しているからである.脳卒中の年間再発率は4-14%と見積もられるが5年間の アテローム血栓性脳梗塞の再発率は,Framingham studyでは男性42%,女性24%であり, Rochester Studyでは性差なく29%, そしてNorthern Manhattan Studyでは25%であった.最初の30日間の再発率が最も高く30%である. ここでは医療経済学的視点より,絶対的リスク低下率の高いとされる脳梗塞の二次予防のための危険因子のコントロールと 抗血小板療法の2つに焦点を絞り最新の戦略について概説する.
I. 危険因子のコントロール(1)
脳梗塞の二次予防には危険因子のコントロ−ルが一次予防同様に重要である.これには高血圧,喫煙,糖尿病, 高脂血症などの修正可能なことが充分証明されている危険因子の管理ならびにアルコール摂取,運動不足,肥満,無症候性脳梗塞, 高ヘマトクリット血症,ホルモン補充療法,経口避妊薬の服用など修正可能なことが十分証明されていない可能性のある危険因子 の管理があげられる.以下米国心臓病協会(AHA)のガイドラインを中心に概説する.
1. 修正可能なことが充分証明されている危険因子として高血圧,喫煙,糖尿病,高脂血症があげられる.
- A. 高血圧:
脳梗塞の二次予防では,降圧療法が推奨される.高血圧は,脳梗塞の最大の危険因子である.欧米の研究では,収縮期血圧160mmHg 以上が脳卒中の発症に最も関与している.本邦の研究では,収縮期血圧160mmHg以上の脳梗塞のリスクは3.46倍,拡張期血圧95mmHg 以上では3〜18倍である.脳卒中の二次予防に対する降圧療法の有効性に肯定的な報告では,約30%の相対危険度の減少がみられる.ACE阻害薬ペリンドプリル4mg/日単独 または利尿薬インダバミド併用群では,プラセボに比べて血圧が9/4mmHg低下し,脳卒中の再発が28%減少する(PROGRESS study).利尿薬インダパミド2.5mg/日 投与群では,血圧が5/2mmHg低下して脳卒中の再発が29%減少すると報告されるが,否定的な古い報告もある.
Jカーブ現象,すなわち過度の降圧に伴い再発率が上昇するか否かは報告により一定しない.一過性脳虚血発作(TIA)あるいは軽度の脳卒中において 収縮期血圧130mmHgおよび拡張期血圧80mmHgまでは血圧が低いほど再発のリスクは低下し,Jカーブ現象はないとする報告がある.いっぽう,Jカーブ現象がある とする報告では,最も再発率が低い拡張期血圧はラクナ梗塞80〜84mmHg,アテローム血栓性脳梗塞85〜89mmHgである.
以上より降圧の目標は生活習慣の改善ならびに降圧薬を使用し,SBP<140mmHgかつDBP<90mmHgとし,臓器障害を伴う場合はBP<135mmHgかつDBP<85mmHgとするべきである. しかし,脳卒中発症後いつから,どの程度血圧を低下させればよいかについては,ランダム化比較試験(randomized controlled trial (RCT))が 少数しかないためまだ明らかではない.観察研究から得られるデータは,脳卒中急性期では異常に高値の時以外は血圧が自然に安定するのを待つべきである, という提言を支持するものである.
日本高血圧学会ガイドライン2000年版では治療開始2〜3ケ月後の一次目標として血圧150〜170/95mmHg未満,最終目標として血圧140〜150/90mmHg未満が推奨されている. - B. 喫煙:
喫煙は,脳梗塞発症のリスクを1.8倍(1.5〜2.9)倍高くする確立した危険因子である.喫煙により動脈壁の硬度増加による伸展性とコンプライアンスの低下 ,フィブリノーゲン上昇,血小板凝集能亢進,ヘマトクリットと血液粘度の上昇,HDL-コレステロールの低下を引き起こす.欧米の研究では,男性喫煙者 の脳梗塞発症リスクは非喫煙者の2.5倍〜4.2倍,女性は1.9倍であり,若年および喫煙量が多いほどリスクが大きい.本邦の研究では,20本/日以上の男性 喫煙者の脳梗塞のリスクは20本/日未満に比べて2.2倍であるとする報告,あるいは男性の喫煙と脳梗塞の関連はないとする報告がある.
禁煙は脳卒中の羅患率および死亡率の低下に有効であり,脳卒中発症リスクは禁煙後1年以内に50%,5年以内に非喫煙者と同じレベルになるので 患者・家族に強く禁煙を促すべきでありカウンセリング,ニコチン製剤,禁煙プログラムを適宜紹介するべきである. - C. 糖尿病:
脳卒中の一次予防では血糖値のコントロールよりも高血圧のコントロールが有効であるとされる.脳梗塞の二次予防について,糖尿病のコントロールにより検討した 報告はない.血糖値のコントロールが比較的良好な群でHbA1c値と脳梗塞の再発率の間には有意な相関は認められないという報告がある.また厳密な血糖値のコントロールが 脳卒中の発症率を高くするという報告もある.
AHAでは糖尿病を脳梗塞発症のリスクを2〜3倍高くする確立した危険因子であるとして糖尿病のコントロールを推奨している. 欧米の研究では,糖尿病における 脳卒中の相対危険度は男性1.8倍〜2.18倍,女性2.17倍〜2.2倍である. 本邦の研究では,耐糖能異常における脳梗塞の相対危険度は男性1.60倍,女性2.97倍と 女性で有意に高い.AHAの脳梗塞の二次予防の空腹時血糖の至適値は126mg/dL (6.99 mmol/L)未満である. - D. 高脂血症:
高脂血症は脳卒中の危険因子として虚血性心疾患ほど確立したものではない.
一次予防ではスタチン系薬剤であるプラバスタチン,シンバスタチンで脳卒中の発症が約30%低下し,ゲムフィブロジルでは非致死的心筋梗塞・冠動脈疾患による 死亡および脳卒中を合わせたイベント発生率は24%低下し,TIAは59%低下したとされ、有効であるとされる.二次予防では報告はないが高脂血症のコントロールが推奨される.
欧米の研究では,高脂血症は若年者の脳梗塞の危険因子である.本邦の研究では,剖検例の総コレステロール値と脳卒中の病型の間に関係はないが, アテローム血栓性脳梗塞ではHDL・コレステロールおよびHDL/LDL比が有意に低い.一方,総コレステロール値と脳卒中は関係がないという報告もある.
高脂血症治療による脳梗塞二次予防を検討した大規模試験では,現在Stroke Prevention by Aggressive Reduction of Cholesterol Levels(SPARCL)研究が進行中である.RCTで否定的な結果が示されない限り,高脂血症をともなう脳卒中患者にとってスタチン療法は有用と考えられる.
AHA の勧告値では脂肪≦30%,飽和脂肪<7%,コレステロール<200 mg/日の食事を開始し体重コントロールと運動療法を行う. これらで目標に達しない場合,またLDL>130mg/dLの場合,薬物療法(eg スタチン)を追加.LDL 100−130mg/dLの場合は薬物療法を考慮するとされている.
AHAの勧告値は以下のごとくである.LDL <100 mg/dL (2.59 mmol/L),HDL >35 mg/dL (0.91mmol/L),TC <200 mg/dL (5.18 mmol/L),TG<200 mg/dL (2.26 mmol/L).
